お話、お話の始まりと終わり

 爽やかな気持ちも、穏やかな心もそれは全て見せかけだった。本当は起こってもないことを感じ取っていたか、まわりに絆されただけか。おそらく絆されていたのだろう。周りの優しさ、生ぬるさ、それが物語を捨てさせようとしていた。

 

 幸せな人生を選択するなら、絆されたままのほうが良かった。しかし、目覚めのための終曲がかけられてしまっただけのことだ。それに抗うことは無理である。もう眠っていることなどできない。終曲、というくらいだからこの軸にのってしまったら、もう引き返すことはできないだろう。一度、引き返すことができただけでも、驚きの事実だ。そんなことは二度も起こらない。

 

 例えば、僕が死んだら彼女は立ち止まるのだろうか。いや、それですら彼女は立ち止まることをしないだろう。僕の知らないところを進んでいって、僕の知らないうちにどこかにいってしまう。僕を起こした割には、僕に無関心な彼女。無視すれば平和は訪れる。それは分かってるんだ。

 

 彼女の魅力といえば、やはりなんとも言えない悲壮感にあるといっていい。僕のことなんか全く興味ないことわかってるけど、彼女は僕に光を、物語を付与する。美しいだけでは満足できなくなってきた、わがままな僕に答えてくれたのだから、多少の問題はどうでもいいと思う。そんなわがままを言える立場でもないから。

 

 僕は時代に取り残されたんだ。変わらない君が好きだった。僕は同じところからしか眺めることができない。君も彼女も変わっていき、とうとう僕は1人ですね。それを嘆いたりはしない。僕は素晴らしいので。いや、そんな根拠なんていうのは強く見せるだけのためにあって、何か確信があって言ってるわけじゃない。

 

 羽化しない、できなかった人のために僕は話を紡ぐ。それはずっと変わらない。