ある季節のこと

またあの子のことを思い出し、冬だなと思うけど、そんなことを思考しているうちは何も変わらなくて、僕は勝手に彼女の思想に対し、手紙を送ろうと思います

 

熱々のおでんを寒空の下で食べる。冬到来、ある帰り道を思い出す。あの時の木枯らしと同じみたいだ。懐かしい曲が流れる、56年前のアニメソング。ある声優のキャラに親しき人の声が似ていたことを思い返す。少し真似をしていたのかもしれない。キャラと親しき人も似ていた。そんな年頃だったのだ。刻み込まれた物語を読み込んで、ある季節を原色のまま感じる。もう一度、もう二度言えない言葉。言えないものが積み重なって、それは刻まれていた。だから、今も原色のまま残っている。記憶から人の情報が消えていくとき、1番最初に思い出せなくなるのは声だそうだ。たしかに、二度と聞けない声を覚えておくのは難しい。僕は物語に託して、親しき人の声を覚えておくことにした。きっかけみたいなものだ。同じ原色、風景、物語が繰り返されることはあり得ない。勝手に類似点を見つけて、均質化しているだけだ。細かいところに気付けなくなっている。二度と会えない人の幸せを祈る。僕は愚かだ。目の前の人を救うことは放棄している。熱々のおでんを寒空の下、帰り道に食べた時のことが永遠で、今のことは瞬時に流れる取り留めのないことばかりだ。

 

圧倒的な天才に思いを馳せる。彼はアマデウスみたいな人だ。まわりのサリエリを開花させまくってる。だけど、どれだけ咲かせても彼を超える人は現れないような気がする。

僕も彼に引っ張られた人のようなものだ。彼を見て、消えかかった物語が少しだけ咲き返した。彼にとってのサリエリにすらなれていないけど、こんな僕を彼は敬意を持って接してくれる。圧倒的にアマデウスでしかないと思っている。彼は天才だ。だからある意味で孤独だ。僕は孤独を選ぶが、彼は彼の思想についていける人がいない。どうしようもなく孤独になってしまうだろう。それすらも乗り越え、まわりのサリエリ達に優しく接する。僕は意地を張ってるだけだ。彼の圧倒的ゆとりが羨ましい。

 

過去のことをぐるぐる考えて、多少物語にするくらいしか能がないのに、彼はどんどん先に行って。どうしようもない莫迦だ。

 

親しき人も、彼のことも超えられるわけはなく、僕は相変わらず底辺みたいな生活を送っています。かといって本物の絶望を知っているわけでもないのでしょう。生ぬるいのでしょう。僕の存在というのは。彼らに比べれば。

 

今年も冬がやってきて。また熱々のおでんを食べた。少しだけ風景は変わった。アマデウスの見る風景を知るわけないし、想像もできないけど、僕は彼を追いかけて。届くこともないだろうけど。