踊れ

才能に限界を感じた。
同じハンデを持っていながらも、じゃじゃ馬をならしていくように軽々と超えていく。まあ、軽々となんていうことはなく、努力の結果であることは知っているけど。彼は天性を持っているわけではない。それは、ハンデを持っていたということでも明らかである。
だからといって彼はそれ以外においては努力家ではない。学問世界においても、日常生活においても、欲しいものを欲しいままに悠々に生きてている。いや、それは羨望の目線で見たから、なんていうことだけなのかもしれない。

価値観を転倒させれば、開放されることは分かっている。しかし、同じ土俵に立とうとすれば、明らかに劣っているのはわかりきった話だ。落ち着くのを取るか、芸術として爆破させるのを選ぶか。
いや、全部嘘。芸術として爆破できるならまだましだ。そんなもの既にないのだ。芸術性の欠片など元々存在しない。
価値観を転倒させようが、彼の意識は変わらない。凡人の悪あがきくらいにしか思っていない。ちょっと飼い猫と戯れているような感覚なんだ。飼い猫に噛まれるなんて夢にも思ってないし、噛まれたところで、どうでもいいとあしらわれるだけであろう。
才能などなく、ただ踊ることしかできない。
彼は美しく舞う。
比較して、美しくない舞。生き様を晒す。
舞うしかない。引き返せないところまで来たということだ。