移動し続ける星

季節が冬に移り変わった頃から、旅を続けている。決まった用件をこなしながら、空いた時間は突発的に移動している。それ以外の時間は大半派遣労働をしていて、せっかく都町に引っ越したのに実感が湧かない。家に帰ると、生活必需品が置かれた倉庫のような部屋があり、底冷えする寒さと戦うことになる。クリスマス直前、流石に耐えられなくなって暖房器具を入手した。抱えていた体調不良がみるみる回復していき、暖房器具に意味があることを知った。暖房器具は娯楽的なものだと思っていたから。

 

ここ数年、クリスマス前後はアルバイトに費やされ、休みという概念はなかった。去年は奇跡が起きて少しだけ魔法のような夜を過ごしたが、それですら仕事終わりのことだった。基本的には疲れるイベント、という印象しかない。今年は24.252日とも休みで旅行するという滅多にないことをした。例年のこともあり、直前まで全て休むことを躊躇ってしまった。以前都内に出かけた時のように、現地の派遣仕事でも入れてしまおうか、なんて思っていて。

 

結果的に言えば乗る予定だった夜行バスが運休になり、帰りの時間が早まったので入れなくてよかったのだが。もし入れていたら大変なことになっていただろう。

 

11月に都内に出掛けた時のこと。ある話を観測するためにとある場所に向かった。その話の続きは長野にあったので、長野(長野市)に向かった。

それは市街地の中にひっそりと存在していた。雪が積もっていて、日も日だから私以外の観光客に会うことはなかった。ゆかりの寺へ向かった。史跡が多い場所だったので、その中の1つとしてそれは紹介されていた。

民家と民家の間にある、とある場所。車で行くことはできない場所にそれは存在していて、誰も踏んでいない雪を踏み進めて向かう。ひっそりとそれはあった。一方通行ではあるが、都内で伝えたことに補足して伝えたいことを伝える。ああ、ごちゃつく内心、なんとか伝わるようにと祈りながら。一面雪景色、当時がまだ残っているのではないかと思った。

住宅地を抜け、幹線道路に入る。即売所を見つけ、足を運ぶ。長芋と薬草、木の実類が販売されていた。何も買わないのもな、と思い長芋を購入する。1番小さいものでも2kgありどうしよう、と思いながらも。長芋と薬草が名産品です、と入り口の看板に主張はあったけれど。まさか10kg単位で売られているとは思わなかった。根菜や葉物類をよく食べて育ったのだろうか、なんてふと思った。

 

 

1つのところに長く留まりたいと思えない。嫌なことがあったからとか、人間関係が煩わしいからとかそういう理由ではない。日常に飽きて何もできなくなってしまうのだ。動き始めれば、止まらずに動くことができるけれど、一度止まると動きたくても動けなくなってしまう。同じところに留まっていると新鮮さが薄れていき、少しづつ速度が落ちていき、そして動けなくなってしまう。動き続けることも弊害はあるにはあるけれど、動けないよりはマシかと思っていて動く方を選択する。

とある生活リズムに慣れてしまった頃の話。決まった時間に家を出て、仕事場に向かい特定の時間拘束され、サビ残をしていく。そして帰るのは朝方。そのまま眠り、ぎりぎりの時間になったら起き、身支度をして家を出る。それの繰り返し。たまの休みも睡眠で終わってしまう。あの時は本当に働くこと以外のことが何もできなかった。やらなきゃ、とわかっているのに動けなくて日々時間だけは過ぎていく。仕事はしなければいけないからと仕事には向かうけど、それが楽しいわけではなく。報酬は発生するが、ほとんど食費で消えていた。それも適当な食事によって。(それが食べたくて食べるというより、あったから食べたという感じ)あの時は義務感と忠義心、そして義理を信条に働いていたが、それは間違っていた。自分に自信がないことを誤魔化すために、礼節だなんだかんだといって威張っていただけだ。したくない仕事ではあったけど、社会の役に立っているから、義理があるから、人材不足だから、とか言って奮い立たせて働いていた。その時点で間違っていて、その労働先にとっても不幸なことをしてしまった。人手不足とかいっても本当にいなくなれば新しい人を雇うだろうし、私がいるからこそ新しい風が入ってこなかったということになって。

でも、権威に酔っていてその仕事に意味を見出していたのも事実で。幼少期の夢は権力者になりたいだった。今ならある程度は否定できるけれど、本当に今は権力なんていらないと言い切れるかは正直わからない。下積み中の人たちを整備することが楽しかったのか、かと聞かれたら多少は楽しかった。正しく力を使うことはできなかったけれど。結局、多少の権力を持っても私は行使するだけの技量もなく、それは高望みで意味のないものであることがわかった。

 

すべてのことを一度解消したくて、あてもない旅に出ることにした。絡まった物語を解くように。結局休むのが怖くて無理矢理労働をいれてしまうし、将来の不安はありすぎて困るくらいだけど、その間に旅を普段より多く計画して。知らない土地の緑茶があまりにも美味しく、触れたことのない土地の名産品を知った。各地のちょっとした情報が現地の人にとっては当たり前なのだろうけど、新鮮で面白い。

どこかでゆっくりできたら、なんて思う時もある。でも帰りたいと思うところは、今は届かないところで。美しいと思っていたものたちに再会した時、別にそうでもないやなんて気が変わってしまって。あの時の感情はあの時だからこそ生まれて、今はもう感じることができない。ああ、どうしようもなくて。また彼女に会えたらいいのに、と思っているが会うことはないだろう。あの時、永遠になってしまったから。どうしようもなく届かないところに行こうとして、それはないってわかってるのに中々前に進めない。何度もやり直すようにと物語を創るけれど、結末はいつもひどくて。次に進める力が欲しい、痛めた足も引き連れて。何にも解決しなくていいけど、大丈夫だと言えるように。