天上を目指す

大切な物語が風に攫われてしまうのかもしれない……、自身の言語は風に攫われてしまうことを願っていたというのに。つい魔法を信じてしまう、祈ることが趣味と思われるくらいには。祈りは届かなくてもよい、祈ることによって保身してるだけだ。そうでもしてないと事案を受け入れられる気がしない。ばか、

海辺に対する後悔は尽きないもので。逃げるように地上を目指した。融合してしまう前に、攫われてしまう前に、といって。少しでも立ち止まったら消えてしまうと思っていた。

そして私は真似事を。創造主を守ることはできなかった。何のために逃げてたのかもわからなくなった。余計な人を巻き込んでしまったことは覚えている。今、海辺に対面できるとするならば……、でもどうせ結果は変わらないのでしょう。ならば攫われてしまう方がよかったのに。予定運命を覆すことは可能か?

越境者でありたかった、といってもそれは遠き日の話。わたしたちの「かみさま」を守れなかったというのに、越境なんてできるものか。「かみさま」の不在。弱々しい灯りを消さずに保つことは難しすぎた。向いていなかった、といえばそこまでの話だけども、でも。越境者であることはできないが、記録するものであることはできる。幻想を掴もうとして、掴み損ねた。

思えば、越境者になるための教育を長く受けていたというのに、なることはできなかった。たくさんの言葉をかけられ、望まれていたというのに。もっともっと小さなことを考えるのが楽しくなってしまって。郷里に向かうのが気まずい。郷里は大切で思い出の地ではあるのだけれど、皆の望み通りにはなれなかったから。望まれた存在通りになることができればどんなに楽だったことか。実際、越境者になりたかった。

共通項などないのだろうけれど、共通項を見出して。きっと似ているわ、なんて。重ねた先に何があるって言うんだ、何にもないでしょう? 海辺を見たというの、まさか君も……。

「かみさま」ではなく、掴むことのできないものだとするならば、それらはきっと素早いものなんでしょうね。あまりに速い。

因子が粒子になって輝くとするならば、影を担うものとして。越境者であることはできなくとも、望まれ教育を受けた身としては。少し飛び込むだけの話よ。まだ姿を見せようとはせずに。